その16:自然体でのぞむこと

(2011.11.30)

■自然体でのぞむこと

お願いしたい第一は、それは各演習に臨む際に、どうかふだん通り自然体でやって欲しいと言うことである。
 
研修に出てくると、少々意識過剰になってしまい、ふだんやっていないことを、つまりいいところを見せてやろうとする人もいる。そう思うことじたいはわるいことではないのだろうが、この行動アセスメント研修では、ふだんやっていないことはまずうまくゆかない。
 
もう一度面接演習で考えて欲しい。
 
現実的に重要な利害や心情のからんだ場面で、自分でない自分を10分間でも、いや5分でも演じきれるものではないのである。そんなことをすると、みるみるつじつまが合わなくなって、態勢が崩れ、話し合いは破綻してしまう。もちろん前述のように、例題に現実感があり、部下役の応対が適切であると言う前提が必要である。いったい、ふだんの自分通りにビデオに現れるからそれをふり返る意味がある。そうでないものをふり返って何の意味があるだろうか。ふだんやっていないことをやると、ビデオを見ても何の勉強にもならない。その上、それを見ている他の受講者に「あれはおれが映っているけど実はおれではないのだよ」と弁明もしなければならない。まああまりよいことはないのである。
 
逆に言えばふだんできていないことを、研修の時だけ演技して、できているように見せられるとしたらそんなばかばかしいものはない。誰がそんなことのために仕事が忙しい中で時間を費やす気になれるだろうか。ふだんの「真実の自分」しか現れないようにするためには、例え研修であっても、一種の極限状況をつくるしかない。と言ってマネジメント研修で、フィールドアスレチックやロッククライミングをするのもいかがかと思う。やはりビジネスマンらしく、問題解決の極限状況がふさわしい。
 
極限状況とは切迫した場面であり、これまで何度も述べたが「節目の場面」である。われわれの日常では,これは今決めなければならない、手を打たねばならない、あとから間に合わないと言う場面が折々めぐって来る。マネジメント能力が問われるのはそうしたときなのである。急ぎはしないし、いつ決めてもよいのだし、放っておいてもさしあたって特別困ることは生じないと言うような案件では、マネジメント力の差など現れない。 
 
従って、各演習場面は、例外なく時間が少し足りない設計になっている。そうでないと、つまりよけいなことを考える時間があると、ふだんの自然な行動が現れなくなってしまうからである。しかし、よく考えてみれば日常も全く同じである。マネジャーや専門職で、いったい時間が余っている人などいるだろうか。1時間の仕事を考え込んで2時間かける人にすぐれたマネジメントは決してできないだろう。案件処理を例に言えば、誰しも日常膨大な仕事、つまり案件を抱え込んでいるはずで、ごく短い間に、何から手を着けるのか判断、決断をしなければならない。そうした時に、よけいなことをあれこれと迷って考えている時間はない。そう言う意味では日常とまったく同じである。例えば課長研修であれば、受講者の方々には、今日は演習中部長にじゃまをされることはないのだから、ふだんよりずっとましでしょうと申し上げることにしている。
 
逆にこんなことを言う。面接演習の前だとする。  

「演習に臨む際、自分はアタマがいいのだ、と自信のあるかたはかえって気をつけてください。」
 
受講者の中にはけげんなお顔をされている方もいる。きっとアタマのよい方なのだろう。
 
「アタマのよい人は、ほかの人よりも早く課題を読めてしまうでしょう。つまり時間があまる。そのあまった時間を前向きに使えばよいのですが、案外そうならない。この課題のこの部分には落とし穴があるに違いないとか、ここに教材作者の意図が込められているに違いないとか、ついついよけいなことを考える。」
 
ここで少なからぬ受講者が笑う。
 
「それで、よし、こうやって応対すればフィードバックのとき、みんなからよいスコアがもらえるにちがいないなどと考えると、もうふだんの自分にはならない。」
 
その結果、上述のように破綻してしまう。
 
「だいたい受験勉強じゃあるまいし、忙しい皆さんを集めて、ここで引っかけてやろうとか、そんなばかげたことをやるための研修ではありません。どうかふだんの力を出しきってくださるようお願いします。」

 


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