(2011.9.25)
■マネジメント能力と専門能力
マネジメントが問われる節目の場面は、日常にどれだけあるだろうか。
まずはっきりしているのは、私たちが自分のいちばん得意なスキルを使って一心不乱に仕事をしている時は、特段マネジメント行動は問われてはいないと言うことだ。この場合の得意なスキルをふつう「専門能力」と呼ぶ。専門能力は、もちろんだいじである。専門能力がなければ何も始まらない。しかし、今日、正社員であって同じ仕事をある程度続け、選ばれてアセスメントのような研修に来る方々で、専門能力の向上に努力していない人などいないだろう。そうでなければ、仕事についてゆかれない。
私はいつも研修の序盤で受講者におたずねする。「今日ここに集められた皆さんは、職場に戻れば、仕事と実務をいちばん掌握している方々、最も専門能力を認められている方々でもありますよね。」集められた人達が課長になりたてだとする。たいてい私の話はこう続く。
「皆さんほどキャリアを積んでくれば、自分の専門分野の仕事はきっと目をつぶっていても判断がつくでしょう。でも皆さんの上司ともなると、もうそうはいかないかもしれない。皆さんの上司だと、より広い範囲を見なければならず、あまり細かなことはわからなくなってしまっているかも知れません。逆に、皆さんの上司くらいのお立場になれば、いつまでも細かいことにこだわっていてはいけないのかも知れません。」
ここでひと呼吸置くと、必ず一定確率で、にやりとして私の方を見返す受講者の方々がいる。自分の上司のご様子を思い浮かべているに違いない。言葉を継ぐ。
「でも皆さんはまだそう言うわけにはゆかない。実務にも精通し、どっぷり漬かったまま、今後は一層マネジメントを行うことが求められる。これは大変ですね。いや本当に大変だ。」
今度は苦笑する受講者もいる。
「なぜなら、皆さんの部下となると、皆さんほど経験が習熟しているわけではないから、皆さんと同じように仕事上の判断を正確迅速にはできない。皆さんが職場に戻れば専門の仕事の第一人者であり、日頃大変なご苦労をしていることはわかっています。
が、今日はそちらの話じゃありませんよ。専門スキルは、ちょっと置いてきてもらって、純粋なマネジメントの演習です。磨きに磨いた専門能力を活かせるかどうかは、これからはマネジメントしだいの面が多くなるので、今日のような機会に、一度、徹底的にマネジメントだけ考え、体験してみようと言うのがこの研修の意味です。5年か10年に一度は、まるまるマネジメントを洗いざらい考える日が、2日や3日あってもよいでしょう。」まだたりないと思う時はさらに以下のように言う。
「何年かに1度はそうやってしっかり自分のマネジメントをふり返って確認しておかないと、ただ仕事さえしていればよいのだろうと言ってずっと長らく過ごしていると、知らないあいだにすっかりこりかたまってしまうかも知れませんね。そうなるともうどうにもならないでしょう。そうなってからこういう研修をやっても役に立ちませんから、今日のような機会がもうけられたのです。実際、他社では、研修後のアンケートを取ると、皆さんと同じくらいのキャリアの人でも、『こんな研修ならもっと早く受けておきたかった』と言う声が少なくないのです。」よく言われるように、経験を積むほどに、あるいは職階を上がってゆくほどに、仕事の成果は次第に専門能力よりも、マネジメント能力により左右されることになる。例の「カッツの曲線」と言うあれである。そうした行動科学の専門用語的に言えば、テクニカルスキル(専門能力)に比して、マネジメントスキルとコンセプチュアルスキルの活用範囲がぐっと拡がるというわけだ。コンセプチュアルスキルとは、概念形成力、つまりは構想力、創造力のことだから、要するにマネジメントスキルのうちの高度なものだと思った方が実際的には手っとり早い。
もう少し正確に言えば、仕事の成果は、専門能力とマネジメント能力の掛け算で決まる。
足し算ではないのだ。足し算なら、嫌いなどちらかが零点でも、好きなどちらかを無限に伸ばせばよい。しかし掛け算だから、どちらかがゼロだと答え(成果)はゼロになってしまう。だから、いくら専門能力があっても、マネジメント能力がなければそれを活かして成果につなげることができないのである。
さて話を戻す。そのようなマネジメントが問われるのは、どのような節目の場面なのだろうか。
■4つの節目の場面
そうした場面は、突き詰めてゆくと、どのような業種、規模の会社でも、以下の4つに集約されて行く。アセスメント研修は、この4つの節目の場面で受講者がどのような行動を取ったかを自分自身で深くふり返る「体験学習」と言う方法論を取る。まず4つがどんな場面かを見ておこう。以下である。
対人場面
集団場面
発表場面
個人場面(意思決定場面)
上記4場面ごとに演習が設定される。以下各場面を、ややくわしくみてみよう。