実戦問答No.23


先生、それはさびしいですね~アクションラーニングの最後の授業~

(2011.09.14)

「先生、それはさびしいですね。」

この仕事をやっていていちばん胸に響くのはこうした言葉である。

ある会社で管理職を選抜で集めてもらい、しばらくの間(6、7回だったか)、アクションラーニングを続けた。受講者の行動と相互の意思疎通に変化が見えてきた。そうした時、社長に伝えられた。

「いつまでも先生におんぶにだっこではいけないと言うことで、彼らメンバー達に、『そろそろおまえ達で本当に自律的な連携の動きをしてもらいたいたい』と伝えました。」

「そうですか・・・・・」

「最近すでにそのような動きが生じてきたことじたいは、先生のお蔭なので、本当にそれは感謝申し上げます。」

「いえいえ、私よりも、彼ら自身の意思で動いたのですから・・・・・」

「いや、先生がそのように自発的に考える場をつくってくれたからでしょう。」

「・・・・・」

「だから、それが本物になるかどうかは一度先生から手ばなれしてみないとみないとわからない。」

「・・・・・」

「だからしばらく先生とのアクションラーニングはお休みにします。が、うまくゆかないようならまたおよびだてすることになると思いますので。」

「・・・・・」

「その時は、もうこんな会社はあかん、なんて言わずにいらしてくださいよ。」

「・・・・・決してそのようなことは・・・・・」

そこで次回は、「最後の授業」ということになった。もちろんアクションラーニングだから、あのフランスの名作小説のように、私が正装して教壇に立って講義をするわけではないし、近所じゅうの名士が参集するわけでもない。その日もセッションは、時に熱心に、時に大笑いし、時には難局に苦渋してとどこおり、要するにいつも通り、とてもアクションラーニングらしく進んだ。

「終業」の時刻が近づいた。

「それでは皆さん、次にお会いするのはいつになるかわかりませんが、この場で学んだことをしっかり胸にとどめてがんばっていって欲しいと思います。」

私は静かに、ごく月並みなあいさつを手みじかにした。するとメンバーの中で、いちばん力もキャリアもある人が、冒頭のように言ったのである。

「先生、それはさびしいですね。」

「・・・・・」

「このあと、私たちだけでセッションをやると、けんかになってしまい、まだうまくゆかないかもしれない。」

実はこの人は、アクションラーニングが始まった当初は、実は

「また社長の思いつきでこんなこと始めて、いったいなんになるのだ」

と言う顔をしていた。それが最後にはこう変わった。と言うより、既に自分自身の問題提示が問われた2度目の会合からそのように変わっていた。

「・・・・・まあ、どちらにしても、自律してやってゆく時期は必要ですから・・・・・。いや、私はこれまでも横合いから支援してきただけで、皆さんは自律的な動きをしてきたと思っています。」

「うまくゆかないときはまたきてくれるのですね。」

「・・・・・いや、そうならないように願っていますよ。」

「はあ・・・・・」

「ただ・・・・・」

「・・・・・」

「ただ、仕事の連携、協調なら私はそんなに心配はしていないのですが、人の成長と言うことになると、もっともっと長い期間で見ないといけない。」

「・・・・・」

「だから私は、仕事の成果とは別に、皆さんが今後どう変わってゆくのか、正直に言うと、もう少しそばで見ていたかった。」

「・・・・・」

「まあ、それもこれも含め、今度お目にかかった時には、すっかり変身していてくださいよ。」

今度は、よりキャリアの浅い数名のほうを見て言った。私に視線を移された彼らは、少しだけはにかんだような表情をした。

会社を辞去するときには、少しだけ思春期の卒業式の帰りの家路のような気持ちがよみがえって来た。私は日々現実の泥沼の中で過ごすごく平凡な中年男に過ぎない。が、胸中をさわやかな風が吹き抜け、何やら希望がわいてきたような気持ちだ。きっと受講者の方々も同じに違いないと思った。アクションラーニングには、不思議な力を神様が宿してくれたようである。



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